製氷皿の虹

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虹度計と書いて、『こうどけい』と読むのだそうです。
「光度計の一種ですか?」
尋ねると彼は悪戯めかして、
「温度計に近いです。さぁお立合い」
水を張った金魚鉢を、奇術師の仕草で弾きました。
片手には冷凍庫から出した製氷皿。升ごとに色の違う氷が薄く霧を吹き、各々の色を揺らめかせます。立体に凍らせた分虹。このまま見ていたい程でしたが、彼は鉢の上へ皿を逆さにし、また指を弾きました。
音も無く着水した氷は鉢底へ沈み、一つずつ浮いてきます。硝子をゆったり移動する様は、ガリレオ温度計を思わせ、――紫。藍。青。氷の色と浮上順は、虹のスペクトルと逆でした。
「光の色にも温度があります。虹の七色はそれぞれ温度と沸点が違う。こうして上手く浮かべると……」
水面に上った虹の氷は、ふっと霧に融け、開け放した窓を順に出て行きます。
彼と共犯者の笑みを交わし、私は曇り始めた空を横目に、洗濯物を取り込みに掛かりました。
ファンタジー
公開:20/03/02 23:08
虹と分光スペクトル ガリレオ温度計 色温度

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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