消えた夢の話

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男鹿半島にある民宿。
春になると生のなまはげが蜃気楼のように現れる湯治場がある。そんな噂をSNSで知り、私はノルウェーからやってきた。
障子戸を開けると外はまだ深い朝もやで、時刻は5時を過ぎたところ。
眠い目をこすり急な階段を降りると雲海のような湯気が漂っていて、階段はそのまま湯の中へと続く。
わりごはいねがー。
読経のような声と人の気配がある。私は浴衣と下着を脱ぎ、それを丸めてブラジャーでヘルメットにして、白濁の湯に身を沈めた。
朝の陽が木戸の隙間から射すと視界が少し晴れて、藁をまとった男たちが鬼面を洗う姿が見えた。20人はいるだろうか。
生のなまはげたちの真剣な横顔と艶のあるおしりは美しく厳かで、私は夢のような時間を過ごした。
わりごはいねがー。
蜃気楼が消えると私は裸で田んぼに座っていた。藁をまとって町に出ると巡回中のなまはげに職務質問をされた。私は煙のように逃げて、そして消えたの。
公開:20/03/02 16:01
更新:20/03/02 16:03

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