ありがとうを盗む泥棒

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ある町に感謝の声を盗む泥棒がいた。今日も黒い声盗り(こえとり)袋を持って町に出る。その袋には「ありがとう」の声を吸い込ませることができるのだ。
店員が客に言う「ありがとうございます!」、おもちゃを買ってもらった子供が母親に言う「ありがとう!」町中で放たれる「ありがとう」の声を相手に届く前に泥棒が袋に吸い込んでしまうので、町は深刻な「ありがとう」不足に陥った。
でも、誰も泥棒を責めなかった。何故そんなことをするのか、みんな知っていたのだ。
大きくなった黒い袋を持って、泥棒はとある病院に行った。そこには泥棒の余命わずかの母親が入院していた。
母親の前で泥棒は袋を逆さにしてひろげた。
中から今まで盗んだ沢山の「ありがとう」の声が出てきた。話す事が出来ない泥棒は、ありがとうを母親に届けたかったのだ。
母親は叱った。ありがとうの形は他にもあると。
そして泥棒を強く抱きしめた。
泥棒は泣いた。
ファンタジー
公開:20/03/03 21:41

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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