蝉だった夜

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夜中にひとりで泣いていると、私は蝉かもしれないと思う。
眠れない私は深夜にシャワーを浴びる。鏡に映る私は蝉。せっかく羽根がついているからと屋上で飛ぶ練習をしてみてもうまく飛ぶことができない。本気で身を投げ出す勇気がなくて、残念な気持ちのままビルの外階段でゴミを漁るカラスを見ていると、夜が群青色のネグリジェを脱ぎはじめた。なんて美しくセクシーな空だろう。
ゆるりと明るくなるプラタナスの並木道。人に食べ残されて捨てられたアジフライをカラスが食べ残して捨てていった。
私はたまらなくなってアジフライのかけらを連れて海へと飛んだ。
「もう帰ろう。海へ」
かけらは笑って、
「僕を食べないから心配してた」
と言った。
捨てたのは私だった。海に泳ぐ彼を見送って、私はプラタナスの木陰で泣いた。
「君は人だよ」
優しい蝶が教えてくれる。
部屋に残したキャベツをもりもりと食べるうちに、私は泣き方を忘れていった。
公開:20/03/03 20:05

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