曖昧な男

これはここだけの秘密にしておいてね。実はわたし……

彼女の言葉はそこで止まっている。僕は必死になって思い出そうとしているのだ。はたしてあれは、狩人に追われていたのを助けた狐だったのか、罠から助けた鶴だったのか、はたまた浜辺で助けた亀だったのか、それとも笠を被せた地蔵だったのか、あるいは……。

今はもういなくなってしまった彼女のことが、｢かつて彼女がいっしょにいた｣ということ以外まったく記憶に残っていないのだ。

なぜ彼女が僕の所に来たのか、そして何をしていたのか、さらにどうしていなくなることになったのか、一切を覚えてない。

部屋に残された聡明そうな男の子と反物と何かの黒い塗りの箱と小判の山を観ながら僕はあれこれ考えていた。

もしかしたら、この箱の中に何か手がかりがあるかもしれない。そう思った僕は紐を解き箱のフタに手をかけた。