今からはじまる。

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いまからステージが始まる。

演劇をやるためにバイトをして、稽古をして、やっと受けたオーディションも通ったことは一度も無い。今回は突然の代役できまった役。自信なんてない。恐くてどうにかなってしまいそう。

舞台は、これから始まるステージを待つ静かな熱気と興奮が入り混じる。

息がうまくできない。
手が冷たい。自分の身体でないみたいな感覚。苦しい、寒い、逃げたい。
ここから誰かつれだして。

「カサッ」

無意識に足が動いていた。動いた拍子に足の付け根の方から小さな音がした。いつも私を励ます母親がくれる飴の包み紙がポケットにはいっていた。

少し苦くあまい飴。今日はよく味がわからなかった。

ゆっくり立ち上がってみる。かすかに確かに音が聞こえる。

また一歩踏み出す。音を確かめるように前に進む。

一歩また一歩。

ブーーー。

はじまりのベルがなった。

これから私のステージが始まる。
青春
公開:19/12/13 23:01

さくまりこ

音楽、美術、読書好き。最近書く方にもチャレンジしてます。
歴史とファンタジー、評論など幅広く読みます。

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