敵は山中にあり

「俺はダメな河童だなぁ」
「そんなことないよパパ」
「お前はそう言ってくれるけど」
「みんな嬉しいんだ。パパと歌えることが」
「でもなぁ。昔ほど声は出ないし」
「出るって」
「俺、足ひっぱってるだろ」
「本調子じゃないだけだよ」
「みんな暮れは忙しいってのにこんな山奥に来てもらってさ」
「みんなパパと歌いたいんだ」
「でもなぁ」
「力いっぱい歌おうよ。アイツがそれを聴いて出てくるかもしれないじゃない」
「出てこないよ」
「諦めたわけじゃないんだろ」
「当たり前だろ」
「果たそうよこの思い」
「ありがとなチカラ。ペンギンだって忙しいんだろ、年末」
「大丈夫。動物園には休みもらったから」
その日、北アルプスの渓谷には世界中から河童を慕うペンギンが集い、雪崩れるほどの美しい歌声が響き渡る。人は眠りの中でしかその歌を聴くことができないから、決して布団を出てはいけないよ。
討ち入り前の最後のお願い。