浄土浄土

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「ああ浄土、浄土。」
 その言葉を口にして、ショートショートの書きすぎだなと苦笑した。振り返れば、海と雲の狭間に雄大な山がそびえ立っているのが見える。周りの皆が幸せそうな顔をしていた。

 ここのシステムはいたってシンプルだ、真ん中の椅子に座った男に、右に行くか左に向かうかを振り分けられる。

「ここは天国よ。」
 私よりも一足先に向かった妻がそう言った。私は仏教徒だが、彼女はキリスト教徒だった。
「私、生まれ変わったみたい。」
 彼女は自分の身体を確かめるように撫でながら、そう言った。
  
 私は彼女が出てきた方向とは逆の道に向かわなくてはならない。そして周りの者達と同じように着ている物を全て脱がされ、煮えたぎった熱湯に身を浸すのだ。
 ここは浄土でもなく、天国と言うよりも、もっとぴったりな呼び方がある。

 私は広い湯舟の中で、手足を伸ばして言い直した。
「ああ極楽、極楽。」
その他
公開:19/12/15 16:02

はつみ

現実世界の2次創作
誰かに教えたくなるような物語を書きたいです

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