偽物

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 キンと冷たい月の夜だ。
 まばらに雲はあるものの、せっかくなので、錫の杯で月見酒と洒落込むことにした。
 辛口の酒に捕らえられた煌々と輝く月は、高い音で鳴りそうだ。
 いざ、飲みくださんと杯を口に当てると、捕らえられた月が叫んだ。
「待ってください! 今空にある月、あいつは偽ものです!」
 杯の月は震えながら、言った。
「騙された。海に映る月に空を奪われた」
 空の月は答えた。
「偽ものはお前じゃないか。そんな嘘で空を奪おうなど、片腹痛いわ」
 言い争いは激しさを増し、杯の月は暴れだす。
 あっと思った時には、私は杯を落としていた。こぼれた酒から囚われの月が解放される。偽ものはまばらな雲に向かって飛び出した。
「わははは。今回は見つかってしまったが、次は必ず空を奪ってやるからな」
 逃げた偽ものの月は、文字通り雲隠れ。
 後には、錫の杯が月の抜け殻になって縁側の下に転がっていた。

 
ファンタジー
公開:19/12/13 08:02

堀真潮

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