人魚と水の文字

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僕は海のそばにある家に住んでいた。小さい頃から海でよく出会う女の子がいた。彼女は下半身が魚で、自分は人魚なのだと言った。
僕は人魚に水の字を教えてもらった。
「横書きにすると、ほら波になるの」
人魚の書いた横書きの字は、次々と波を生んだ。大きな波、小さな波、美しくカーブを描いた波。
「縦書きにすると、雨になるの」
人魚が書いた縦書きの文字はつらつらと流れて、細い雨になった。
「あれ、君、泣いてる」
「そうなの。縦書きの文字は涙にもなるの」
僕らはそれから、毎日のように一緒に波を書いたり雨を書いたりした、悲しくもないのに二人して涙を流した。
僕が大人になって海のそばの家を離れて大きな町に行くことになって、さよならを言うと人魚は縦書きもしていないのに泣いていた。
海のない町で僕は、人魚に向けて手紙を書いた。水の文字で縦書きにする。町は毎日のように雨が降った。僕の心は海にいる人魚に届くだろうか。
その他
公開:19/12/12 23:47
更新:19/12/20 10:31
スクー 縦書き愛

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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