暖ボール

我が社が発明したダンボール、通称〝暖ボール〟は大々的に売り出された
文字通り、段ボールの中を暖められる
画期的な発明として話題になった
だが、全く売れない
なぜだ
責任者は会議を開き、ひとつの結論を出した
『段ボールに入れて暖めたいものなど、ない』

一方、ライバルが技術を応用して作ったのは、寒ボール
こちらは飛ぶように売れた
冷凍食品、アイス、おふくろの味
冷やしたいものは山ほどあった
冷蔵や冷凍の宅配便は、駆逐された
やられたの一言だった

はあ……
大量に捨てられた暖ボール

翌朝、本社前に主婦が集まっていた
「この子可愛いわ」
「お腹すいたわねぇ」
中にはたくさんの野良猫がいた
暖かい住処を求めて、どんどん集まってくる
セルフ「拾ってください」状態
はじめて暖ボールが必要とされた瞬間だった
利益にはならないが何か嬉しい
厳しい冬を、ぬくぬくと過ごしてくれ
誰かのコタツに辿り着くまで