ふあんげ

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「先生、私不安なんです」
「どんなふうに」
「どんなって…胸からこう、すぅーっと空気が抜けるような感じで」
「ほかには」
「元気がでないっていうか、やる気が起きないんです」
「では無言室でレントゲンを撮りましょう」
地下にある無言室は霊安室のような冷たさで、叫び厳禁という貼り紙がある。壁には小さな穴がひとつだけあり、その穴から先生の耳だけがこちらに向けられている。
長い静寂のあと「息を吸って、止めてくださーい」と始まった。
「もう死んじゃうって寸前まで、止めてくださーい」
私は不安に襲われた。心臓は鬼太鼓のように激しく鳴って打ちやまず、呼吸を止めたまま、叫ぶことも禁じられている。そのまま意識が遠のいていくのを感じながら、すっーと空気がもれるような音が聞こえた。
「はい結構ですよ」
先生の声に私は一命をとりとめた。
「心臓の毛が抜けてるね。そりゃ不安にもなりますよ。げん毛もやる毛も少ないな」
公開:19/12/11 11:28

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