辞書がこわいわけ

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 ぼくは辞書がこわい。
「わからない言葉は辞書を引いて調べなさい」ってママが小さな辞書を買ってくれた。
 小さな辞書を引くと、その言葉は、こうこうこういうときにつかうんだよ、って書いてある。ぼくが知りたい言葉の使い方は、みんなここに書いてあって、ここに書いてあるのと違う使い方をすると、みんなはヘンな顔になったり、「違うよ」って直してくれたりする。ぼくは、この辞書の通りにしか言葉を使っちゃいけないんだ。って思った。
 家には、大きな辞書もあって、それは押しても引いてもびくともしない。
 ぼくはパパに「大きな辞書を見たい」と言った。パパは「公彦にはまだ早いな。自分であの辞書が持てるようになったら自由に見なさい」と言った。
 ぼくは小さな辞書で「自由」を引いた。するとパパの「自由」の使い方は、どうやら間違っているらしい。でもパパは大きな辞書を自由に引ける……
 それから、ぼくは辞書がこわいんだ。
その他
公開:19/12/11 10:53
ノアールさんによる 写真ACからの写真 こわいわけ

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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