枕辺の聲

地方鉄道Ｔ駅からＹ駅間に架かる鉄橋は、その筋で有名なスポットらしい。
全長約１５０ｍ、３つのトラスが連なる鉄橋の、中央を列車が通過する時だけ、ジョイント音が変わる。不思議な事に、幾多の録り鉄、オカルトマニア、ブン屋にＴＶが最新機材を突っ込んでも、録音不可能。人間の耳でしか聞けない音だとか。
ガセか釣りか知らないが、だったら聞かせてみろと、Ｔ駅から列車に乗りＹ駅へ。
――タタン、タタンと軽快にリズムを刻み、列車が鉄橋に差し掛かる。７０ｋｍ／ｈで、１トラス２，５秒。いよいよ問題の中央――

――タ。
音が、違う。
・・タ。
瞬き一つでトラスを越え――タタン、に戻る。
もう辛抱堪らなくて、Ｙ駅で折り返す。

・・タ。
理屈では、ここだけ下に水があるから。枕木とレールの音が、川に反響して変に歪むんだ、それくらい判ってる。


――アナタ。
耳朶を撫でる様な、甘く齧る様な聲。
腰骨の辺りが粟立った。