張りぼての男

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 あの男が置いていった張りぼては、大きくエラの張ったところといい、脂ぎった様子といい、反り返った姿勢といい、あの男そのものでした。私はそれを、絶対に夫が覗く事のない仏壇の裏へ、ゴロリと転がしておいたのですが、そんな折、夫が一週間の出張になりました。
 むんずと掴んだ張りぼての、その久しぶりの感触に身体が一瞬奮え、私はもう、恨みにも似た気持ちで、それを生ゴミとして出したのです。
 ところが、それは「ルールを守ってください」という貼紙とともに残されました。翌日のプラゴミの日も、その翌日の不燃ごみの日も、その翌々日の資源ごみの日も、その張りぼては回収を免れ、私はそれを抱えて帰るよりほかなかったのです。
 いっそ野原へ捨ててしまおうかとも思いました。けれど、この種から、あの男が野原一面に蔓延ってしまったらと思うと恐ろしく、それもできません。
 なので私は、仏壇の裏にそれを立てて、毎朝拝んでいます。
その他
公開:19/12/12 09:54
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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