鉄の虫籠

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幻軌鉄道の未来逢坂線で活躍した、l-6400系の元祖『lmo』が卒業を迎えると聞き、私はその瞬間に立ち会おうと現地へ向かった。
リビングトレイン(生体列車、略してリビトレ)の牽引役も、芋虫型の宿命である羽化を押し止める事は出来ない。現行の軌条では、もはや限界だった。

鉄橋トラスを改造した蛹室(ようしつ)では、丸々肥った終齢車両が、蛹に固着するところだった。筒型2両編成の車体は樹脂に覆われ、頭部の複眼ライト群は閉じている。ガラス質の斑紋窓から、融解を始めた内部が透けて見えた。ツノ状パンタグラフ、特徴的な疣足(いぼあし)車輪が、急速に劇的に変貌していく。

一昼夜掛け、『lmo』の羽化は終わった。
石膏の鋳型の様な蛹に亀裂が走る。鉄の虫籠が天井と四面を開き、滑走路を作る。
新生『mosola』が悠然と空を舞う。明日からは国際空想港の翅として、人と夢と浪漫を乗せ、また果て無き飛躍を続けるのだ。
SF
公開:19/12/11 19:22
鉄橋のSF 芋虫の蛹(さなぎ)と羽化 鉄橋シリーズ、これにて幕。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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