それでええねん

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本尊募集。
旅の途中で立ち寄った寺の掲示板にそんな達筆の書があった。年齢性別経験不問。ただし永年で、とある。
寺町の朝は静かに冷えて私のほかに歩くものはない。
中学を出て親の新聞配達を手伝うようになった私は、20年休むことなく配達を続けた。交通事故をきっかけに配達を辞め、療養後に人生ではじめての旅に出た。ずっと朝に生きてきた私は、旅の空でも朝を歩く。
この寺の本尊は盗難に遭ったと説明書きにある。境内にはトライアル堂という仮設の建物があり、その中で3人のおじさんが本尊を目指していた。
土に半身を埋めて手や耳で花を育てているおじさん。自転車を漕ぎ続けて発電するおじさん。落語を話し続けるおじさん。
私は花のおじさんに本尊とは何かを聞いた。
「永く変わらず、大好きでいられる存在かなぁ」
そのおじさんが住職だと聞いて私は驚いた。そしてこの町で新聞配達をしたいと思った。
続けることはきっと美しいから。
公開:19/12/09 13:07

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