リンゴの花

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空から花が降ってくる。
私はメイコを狐だと思っている。物の怪のたぐいで、そうした力で空から花を降らせるんだろう。
メイコは、私が中学受験に合格した時、高校に進学した時、大学に入学した時、家のまわりを花の香りで満たした。そして窓辺に一輪、置いていった。
メイコの私への愛情は長く密やかなものだった。
けれど、ある日、見つけてしまった。
当時の彼氏はそれをイタチだと言ったけれど、イタチにしては大きすぎた。
「キツネじゃない?」
それから、メイコは姿を見せるようになった。
春、夏、秋、冬。
メイコは空から花を贈ってくる。
私は少しずつ花の名前を覚えていった。
何人かの男の子と付き合って、テーマパークに行ったり、夜景を見たりしたけれど、展望台を取り囲むように花を降らせたメイコほど、豪華で独占欲を示した人はほかにいなかった。
あの時は、展望台にいた人たちみんながどよめいたね。
あれはリンゴの花だった。
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公開:19/12/09 09:15

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