ふしめぐろ

この海域はふしめぐろが捕れることで有名だ。食べさせてやるとの甘言につられて付いてきた俺だが、既に後悔している。慣れない俺は船酔いして吐いてばかりだ。
爺ちゃんは呆れていたが仕方ないだろう。俺は漁師じゃなくてアイドルになりたいのだ。応募した書類の結果は四年くらい返ってきてないが。
漸く落ち着いた頃、海面に大きな影が見えた。爺ちゃんが興奮した様子で叫ぶ。
「ふしめぐろだ！ケンヤ、お前が捕まえろ！」
「無理だよ！餌を持ってない！」
ふしめぐろを捕るには餌が必要だ。けれど俺には餌なんて……あ！
「これでいいかな」
ポケットに入っていた一枚の紙。諦めきれなくて出そうとしていた二枚目の履歴書だ。何ってジャニーヌの。
ふしめぐろは食い付き、すかさず釣り針をひっかけて釣り上げる。
「やったな！お前は漁師に向いてるぞ！」
節目を知らせるふしめぐろ。どうにも納得できなかったが、刺身にしたらとことん旨かった。