預言者さま(5)

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早朝、村で赤子がひとり產まれた。私は父母に請はれて名付け親となり、形ばかりの祝福を與へた。謂はば、天の父の名に依るものである。

その晩、空遠に散る夥しい星々を眺め渡しながら、自らの出生を思ふ。後の世で、私は果ての月に產まれたと言はれるやうになる。帝國の祝祭との混淆だらう。
嚴しい眞冬の夜に馬小屋で子を產む者は居るだらうか。羊飼ひは冷たい夜半に野宿をするだらうか。東方から來たと稱す三人は何者だつたのか…

私は畢竟、俗衆によって祭り上げられただけであつた。油注がれし者と云はれ、王の王と云はれ、神の子とまで云はれ…
いま脇腹の傷が痛む。冬の空氣の所爲だけではあるまい。私は半生を思ふと、決まつて此處の疼きを感じるのだ。

私とは、天の父とは一體、誰なのか…

上弦の月が南中した。漆黑に蒼白く浮かぶ楕圓の麗しき幽體は、一握の地塵のやうな存在を斯も慰めんとする。些かの寒さでさへも悅ばしくあらうか。
ファンタジー
公開:19/12/09 23:10
更新:19/12/11 09:08
キリスト外伝

白ねこのため息( あちらこちらにいます )

2019年9月14日から参加いたしました。
しみじみとした後味や不思議な余韻が残る作品を目指しています。
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ちなみに、写真は一部を除き、全て自分で撮影したものです。併せてお楽しみ下さい。

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これからも引き続きご愛顧のほど、何とぞ宜しくお願いいたします。ペコリ。
 

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