街並み

8
8

東の窓から朝陽が差し込む。そうして彼女は目覚める。ふわふわもこもこのパジャマのまま、顔を洗ってコーヒーを入れる。コーヒーの香りが部屋に漂う。窓をあけて、晴れた空と街並みに微笑み、部屋の空気の入れ替えをする。
毛足の長い猫が足元にからみついて、ニャアとひと声。
おはようと言って彼女は猫を抱き上げる。

こうした細やかな日常を描く遊びを大伯母は何十年も続けている。
空襲の様子も、初めてテレビを見た時のことも、教科書よりずっと鮮明に教えてくれた。
大伯母さんは私を知らない。
「あらいらっしゃい、あやちゃん」と、いつも私を母の名前で呼ぶ。
大伯母の中で人間関係は40年前のまま時を止めた。人形遊びの街並みだけ、新しくなりながら。
その他
公開:19/12/08 07:21

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容