最後の願い

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 横たわる妻を前に、私は途方に暮れている。愛する妻の最後の願いを、どうにも叶えられないでいる。

「もし大学生になってもお互い恋人ができなかったら付き合って」
 高校の卒業式で冗談ぽく言われて交際が始まったのだが、二人とも別の恋人を作るつもりなどなかった。
 就職で一度、離れたときは、
「もし三十歳になってもお互い独身だったら結婚してね」
 結婚後は、
「もし起きる時間になっても寝てたら起こして」
 そんな妻が真剣に頼んだことがあった。
「もし私があなたを忘れて、いろんなことができなくなってもまだ生きていたら、その時は私を殺して」
 私を忘れた妻のかつての願い。だから。いや違う。本当は、変貌していく妻を見るのが辛かったから。
 横たわる妻の亡骸を前に、私は途方に暮れている。最後の願いを叶えることができずに。

「そして、もし私を殺しても、あなたがまだ私を愛していたら、その時は私を忘れて」
その他
公開:19/12/08 02:48
更新:19/12/27 20:23

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