星のささやき

朝起きて窓を開けたら、世界は凍ってる。
温度計は－５２℃。１２月平均より３．２℃低い。惜しいな、あと０．１で休みなのに。欠伸が吹き出しみたいにふよふよ浮かぶ。шёпот звёзд（ショーパット・ズヴョースト）、日本語だと星のささやき。実際はあんまり音がしない。オイミャコンに引っ越して最初の年、ちょっとがっかりしたっけ。しっしと払って窓を閉める。
雪だるま状態に着ぶくれて、暗く曇った道を登校する。日照は３時間。寒いより痛い。鼻と口を覆わないと、息や唾が凍って喉に刺さる。さすが世界一寒い村。それでも人がちゃんと生きてる。
「Доброе утро！（おはよう）」
クラスメイトのターニャの声。背中を叩かれて振り返る。
「Доб……うわっ！」
目の前に雲。けらけら笑いながら『おはよう』を散らしてスカートが跳ねる。凍ったまつげが白いマスカラみたいに揺れる。ミントの匂いを追って、僕の心臓も走り出す。