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 僕はずっと昔からこの暗がりを泳いでいたのだろう。
 光の届かない此処は何も見えないはずなのに、手に取るように全てが分かる。
 何があるのか、誰が居るのか、僕はどうなのか。
 僕は優雅に泳ぐ彼等に溶け込むわけでもなく、離れるわけでもなく、周囲を揺蕩って景観を乱さないように努めている。
 しかしある時、僕の認識する彼の瞳に映る僕が微塵の美しさも備えておらず、甚だ滑稽でしかないことに気付いてしまった。
 僕は如何にも打ちひしがれているかのようにしてみせた。
 つまりは、その僕の有様ですら本当は分かっていたのだ。
 僕は僕自身を怖いくらいに認識している。
 ゆえに分からないから分かることなのだが、僕が僕を認識できなくなるその時こそ、この暗がりを抜け出すことができるはずだ。
 この自意識の海から浮きがった時こそ、僕の節目となるに違いない。
 僕はその時を想像して愕然とした。
 
 
その他
公開:19/12/09 00:48
更新:19/12/10 13:00

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