でんしゃのおうち

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きっかけは娘の言葉だったと思う。
「おうち!パパ、おうち!」
小春日の午後に誘われ、普段は通過する駅で電車を降りた。次の便まで散歩しようと、娘の手を引いて駅舎を出る。
「ほんとうだ。おうちだねぇ」
線路を横切って川が流れ、古びた鉄橋が架かっている。鉄橋の中央、ベニヤとパイプで組んだ壁にトタンを被せたそれは、子供が絵に描いた家の様だった。塗装工事の足場なのだろう、『おうち』の先は鮮やかな色をして、別の橋かと見紛う程。過去と未来の交流点、などと想像を広げて笑う。
「おうち、いきたい!」
「はいはい、後で行こうね」
折しも、逆方向から電車が『おうち』に進入する。速度を落とした車体が、蜃気楼に似てゆらりと霞む。3秒。5秒。10秒――
なぜ出て来ないのだろう。ふっと不安がもたげる。
「おうち!ねずみのおうち!」
無邪気に弾む声の向こう、――にちゃり。粘着質な音に続けて、エアブレーキが細く尾を響いた。
ホラー
公開:19/12/08 21:31
更新:19/12/08 21:32
鉄橋の怪談

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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