三百年

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 その木は山奥の尾根にひっそりと生を受けました。
 岩場のせいか、他に育つのは苔や羊歯だけでした。木が話しかけても、種族が違うからか、相手にしてもらえませんでした。鳥や虫に声をかけても、言葉が通じませんでした。
 背が高くなるにつれ、遠く離れたところに自分と同じような背の高い木が何本もあることに気づきました。
「初めまして」「聞こえますか?」「おーい」
 声は届かなかったのか、返事はありませんでした。
 何のイベントも起きない日々。一人ぼっちの木は大きくなっていきました。
 やがて、年をとり、足腰が弱ったせいか、台風が来たときに倒れてしまいました。


 同じように台風で倒れた五重塔がありました。木はその修復に使われることになりました。
 節のない美しい檜だと褒められました。
 五重塔がちょうど、築三百年の節目、木も樹齢三百年の節目のことでした。
その他
公開:19/12/08 17:46
節目

田辺 ふみ

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