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「早く娑婆の飯が食いてえなぁ」

四人で寝起きする狭い部屋で彼は言った。ここでの会話は、飯のことばかり。
なにせ、毎日味気ない病院食の様な麦飯とおかず。

「なぁ、娑婆に出たら何が食いたい?」

「俺ぁ牛丼かなぁ。大盛りをガーっとかっこみてぇ」

牛丼、その単語だけでその場にいた四人の口内は唾液でいっぱいになった。


そして彼は模範囚として必死に勤め、ようやく仮釈放に漕ぎ着けた。

「よーし、これで牛丼が食えるぞ」

相変わらず、彼の脳裏は飯のことでいっぱいだった。服役中に稼いだ工賃は微々たる物だったが、すぐに近場の牛丼屋に駆け込んだ。

お待ちかねの大盛りつゆだく。
数年間、待ち望んだ丼を前に彼は生唾を飲み込んだ。

「いっただっきまーす!」

早く牛肉と白米のマリアージュを楽しもうと一心不乱にかき込んだ。
しかし彼は何故か拍子抜けした。

「あれ・・・?塩っからくて食えねえや・・・」
その他
公開:19/12/06 00:02
食事 食べ物 刑務所 グルメ

智琉誠。

太宰治先生と三島由紀夫先生で義務教育を終えました。売れない作家をやっています。

日常を切り取った短編を書くのが好きです。
若輩者ですが、ノスタルジックな作品が書けるようになりたいです。宜しくお願い致します。

連載はこちらから
https://m.magnet-novels.com/my/novels

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