届かぬ世界へ

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猫は流体だというひとがいる。それは嘘っぱちだ。だって、流体なら低い方へ流れて、そこにすっぽりとはまるはずだろ?

うちの猫たちはよくなついていた。昼間は煩わしいくらいに僕の膝の上に乗りたがったり、しょっちゅう声を掛けてきては僕の仕事を邪魔していた。

でも寝る時は、彼女の脇や足の間、枕元や布団の中ばかり。僕が無理やり布団の中に入れようとしてもすぐに出ていってしまう。それが僕にはちょっと寂しかった。

ある日、一匹の猫が僕の身体の上に来ることをしつこく続けて来た。邪魔だとどかしてもすぐに上に来たがる。もう余命がいくばくもない頃だった。何度チャレンジしても僕の布団の中には入りたがらない子だった。

流体なら身体の上からこぼれて下に落ちるはず。でもその子は上にあがりたがったのだ。

ひと月あまりの闘病の末、その子は灰になり煙となって旅立って行った。

けっきょく一度も布団の中に収まることなく。
その他
公開:19/12/06 07:00
206 月の文学館 猫と煙

武蔵の国のオオカミ( ここ、ツイッタランド、タイッツー )

武蔵の国の辺境に棲息する“ひとでなし”のオオカミです。

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