タコさん

「またタコさんだわ」
同僚がそう言いダンボールを持って来た
中には絵や習字、陶芸品が入っていた
彫刻は緩衝材に包まれて届いた

『昔からですか？』
私は興味本位で尋ねた
半年前にこの区民ギャラリーに来てから、毎月彼の作品を見ている
「もう何年も。すごい創作意欲よね」
『何者でしょうね？』
私はそう答えながら、作品を運んだ
「噂通り、タコなのかも」
彼は製作の早さから、手が８本あると言われ、タコさんと呼ばれている
ギャラリーはタコさんのお陰でファンがつき、客が絶えない
「会いに行く？」
『え』
「住所は書いてあるわけだし。芸術家の集うシェアハウスかもね」
確かに、大勢が一つのペンネームで応募しているのかもしれない
それなら腑に落ちる


着いた
私は窓から様子を覗いた
見えたのは老人だった
彼は激しく筆を使い十分足らずで絵を一枚完成させた
お見事！

驚いた私は、思わず十本の足で口を押さえた