いろいろな目

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故人は不倫を繰り返していたので、乾いた葬式になった。参列者も少なく、小さな式場に僧侶の読経だけが響き渡る。
声が途切れると、僧侶がおもむろに立ち上がった。法話の時間だ。
「故人とは長いお付き合いでしたが、彼女はいろいろな目を持っていました。まずは欲目。金と男には目がありませんでした。すぐに一目惚れして、色目を使い、羽目を外したことは数知れず。男に金を渡しては逃げられ、弱りに目に祟り目です」
何の話だろうかと、参列者がひそひそ話を始める。いつもの葬式と勝手が違う。
「そんな彼女も、大事にしていた目があります。節目です。冠婚葬祭すべてにおいて一生懸命でした。それが彼女の生甲斐だったのでしょう。
 本日、彼女は最後の節目を迎えました。みなさん、いままでのことはすべて水に流し、故人のご冥福をお祈りしてください。それが皆さんにとっても節目になると思いす。合唱」
式場は、いつしか涙に包まれていた。
青春
公開:19/12/07 11:53

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