母のホイル焼き

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 生姜醤油に漬けた賽の目のカジキマグロと、炒り卵、生椎茸のスライスをマヨネーズで和えたら、ホイルに包んでオーブンで焼いて出来上がり。メールで母に聞いた通りに作った。
 誕生日や進級、就職祝い。お祝いだけでなく、家族の誰かに辛いことがあった時も、母はこのホイル焼きを作ってくれた。家族皆の大切な思い出が、母の味で繋がっていた。

 私は今日、上京して五年勤めた会社を辞めた。
「美味しい。ちゃんと出来てる」
 本当はもうひと工夫あるみたいだけど、ちゃんと母の味がする。
 ほかほかご飯も口に運ぶと、私はふと懐かしい、温かい記憶に包まれた。

「頑張ったね。偉い偉い」
 ボウルの食材に優しく声をかけながら、マヨネーズを和える母の面影。

 ――そっか。私は、頑張ったんだ。

 案外すっきりした気持ちだったのに、急に涙が零れた。やっぱり明日、久し振りに帰ろう。母のホイル焼きに、「ありがとう」を包みに。
その他
公開:19/12/05 05:17
節目

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