大陸

私は海外に行ったことがないので「大陸」というものを見たことがなく、概念の上でしか知らない。見たことがあるのはせいぜい「情熱大陸」くらいのもので、そのことは私の密やかなコンプレックスだった。
そのことを思い切って友人に伝えると、うちで見られるよ、という。私は喜び勇んで支度をし、午後3時きっかりに彼女の家を訪ねたのだった。
「これ」
差し出されたのは、少し大きめの石ころだった。
「なにこれ」
「中国の石」
「違うよ、私が見たいのは」
「どう違うっていうの」
「うーん」
いいようにごまかされている気がした。
「あげる」
「いや結構です」

がっかりしている私のために彼女はお茶を淹れながら、母が大陸の人だったの、と言った。初めて聞く話だった。
帰り際に、ふたりで公園のブランコを漕いだ。

貰ってしまった石ころは、置き所がないのでうちの床の間に飾ってある。わが家では一応、それを「大陸」と呼んでいる。