私をくるむもの

私の住む村には土地神信仰が根付いている。
母は生まれたばかりの私を連れて猫山へと向かう。猫山は大きな猫であり山である。
母は猫山に私を紹介すると何本か毛を受け取る。それでおくるみを作るのが村の風習だ。
猫は寝子。寝る子は育つ。母と猫山の温かさを受けて私は育った。
５歳になると父に連れられ犬山へと向かう。犬山は大きな犬であり山である。
父は犬山に私を紹介すると何本か毛を受け取る。それで外套を作るのが村の風習だ。
犬は喜び庭駆け回る。雪深いこの地で寒さに負けない体になる為に。父と犬山の温かさを受けて私は育った。
私は大人になり、この村を出る事にした。猫山と犬山にも挨拶に向かった。
猫山は私の右頬を舐めた。犬山は私の左頬を舐めた。私は猫山と犬山を抱きしめた。
絶対に戻って来るから。そう約束して村を離れた。
結婚して村に戻ってきた私は猫山と犬山から手厚い歓迎を受けた。私達夫婦をくるむものは温かい。