魔女の弟子

　おばあちゃんは魔女だった。
　何かが起きると、「大丈夫」と言って、指をポキポキ鳴らす。
　これが魔法の呪文代わり。
　すると、何もかも上手くいくのだ。
　おじいちゃんが病気になったときも、お母さんが離婚したときも、お兄ちゃんが引きこもりになったときも。
　ポキポキッ。
　魔法を教えてって言っても、おばあちゃんは教えてくれなかった。
「自分で魔法を見つけるんだ。それが大事」
　そうだね、おばあちゃんの弟子なんだから、自分で見つけないとだめだね。
　節くれだらけの指は魔法の証。
　そうじゃなきゃ、百パーセント成功するなんて、ありえない。
　結婚指輪はシンプルなのを選んだ。
　指の節が太くなっても、サイズを変更できるように。
「急に転勤が決まってしまった。忙しくなるけど」
　彼の心配そうな顔。
「大丈夫」
　わたしはポキポキっと指を鳴らした。