奈良に行った日

「大仏が立った」という話を聞いたので私はさっそく奈良へ向かったのだがそれはどうやら私の早とちりで、立ったのは鎌倉のほうの大仏だという。確かに鎌倉の大仏のほうが屋外にいるので立ちやすそうではある。
私は近鉄奈良駅の行基さん前に友人を呼び出して、この鬱憤をぶつけた。聞けば彼女も先日鎌倉まで立った大仏を見に行ったという。鎌倉は連日大賑わいで、江ノ電も終日満員らしい。猿沢池から興福寺に上がったところでそう聞いて、ああなぜ奈良なんかにいるのだいま、と私は溜息をついた。線香の匂いがする。
足は自然と東大寺のほうに向かう。人がそう流れている。この人たちはわざわざ座っている大仏を見に行くのだ。私たちも流されるように大仏殿の前に着く。鹿がいる。たくさん。

「大仏さん、見ていく？」

「いいよ、座ってるんでしょ」

そう言って私たちが踵をかえしたとき、後ろのほうからめきめきと木の崩れるような音が聞こえた。