色打掛一夜

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姉の結婚式前夜、その色打掛は和室で広げられていた。物言わぬ蝶のようにひっそりと、しかし堂々とその美しさを見せてくれる。代々受け継がれたその着物は、祖母も母も袖を通したものだ。明日は、姉がそれを着る。
「女の子が生まれたら、着せてあげてね」
隣の部屋で、母と姉が幸せそうに話をしている。僕は黙って、色打掛の前に歩み出す。
子どもの頃からずっと憧れていた。でも僕は男の子だ。だから……。
不意に、打掛が動いた。ハッとして凝視する。袖から白い手が覗いていた。おいでおいでと手招きするから、恐る恐る近づく。白い手は僕に打掛を着せ、そのままぎゅっと抱き寄せる。白檀の香りに包まれ、心地いい。
お前のことも見ているよ。明日の晴れ舞台、お前も見とくれ。
誰かの言葉が、衣擦れから聞こえてきた。
認めてくれた。そんな気がして、少し泣いた。
これは僕と色打掛だけの秘密だ。香りと声に励まされ、僕の幸せを探してる。
ファンタジー
公開:19/12/01 21:13
節目

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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