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義母は人前に出るのが苦手だった。旦那の葬儀だというのに喪主の挨拶を嫌がり、最後は娘たちが強引に説き伏せた。
メモを読み上げなくてもすむように、何度も練習した。ところが当日雨が降り、目算が狂った。定型句である「本日はお足元が悪い中……」を挿入したために、挨拶の内容を忘れてしまったのだ。長らく続く沈黙に式場がざわめき、何人かは義母が感極まったのと勘違いしてすすり泣きを始めた。
慌てる娘たちの一方で、幼い孫たちは木魚をおもちゃと勘違いして、坊主の隙を盗んで思いっきり叩いた。そのなんとも言えない響きに、会場は爆笑の渦に巻き込まれた。
史上最低の挨拶を終えると、赤面する娘たちを前に、坊主が挨拶をした。
「葬式は涙と決まっているものではありません。にぎやかなお葬式で、故人も喜んでいることでしょう。ほら見てください」
娘たちが顔を上げると、写真が苦手だった義父の遺影が、少しだけ微笑んでいるように見えた。
青春
公開:19/11/30 01:19

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