水天神~産土(完)

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掠れた墨が、絵馬に二人の名を記す。初詣の絵馬だ、憶えている自分が書いた。
『末永く、二人並んで幸せにあります様に』
どうして。頭を抱えた。目を覆った。
「貴方達は、絵馬を産土神(うぶすながみ)に捧げました。神の誓いは、人の紙切れの様に、容易く破る事は出来ません。古びる事も、失われる事もありません。土地を離れ、何処とも知れぬ野辺を海原を流離い、人がその存在すら忘れても、神の加護は、常に人の上にある」
どうして忘れた、どうして素直に向き合わなかった。本当の望みを願いを祈りを――どうして。
「己への憎しみに囚われ、彼女からも誓いからも逃げた貴方を、彼女は今も想っています。それは貴方も同じはず」
顔を上げた。人形の体も声も白く透けて、気の早い雪を川面に散らした。
「まだ間に合います。貴方達は、生きているのですから」
巫女の袴が崩れ、鳥居の背に丹色の橋が見えた。砂土を踏み締め、私は注連縄をくぐった。
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公開:19/11/29 21:07
産土神(うぶすながみ): 土地の守り神。生涯の守護者。 これにて完。 ご観覧ありがとうございました。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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