水天神~絵馬

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袖を払った人形の手が、短くなった髪を搔き上げた。筋張って固く、乾いた指。
「貴方が家を出た年、ひな祭りの晩に、彼女は私の髪を断ちました」
乱れた髪に白いものが混じり、ふっくらした面は痩せ、皺が寄り、私と同じ程に老いた。別れを選ばず、共に年を重ねれば、見られたはずの顔。永久に失われてしまった、長い長い時間。
「告げなかった事と、知らなかった事は違います。彼女が黙って貴方を行かせたのは、貴方の苦しみに、これ以上障らぬ様に、強いて堪えたからではありませんか?彼女が子供を欲したのは、他ならぬ貴方の子だからではないのですか?貴方が去って後、彼女が新しい人生を悔いなく歩めたと、貴方は断じきれますか?」
境内からいななきが届き、蹄が水上を駆ける。私の前に鼻面を下げた神馬の像は、片手の幅に縮んで掌へ落ちた。
昔の絵馬。――そう言えば、結婚した平成二年が午年だった。図柄を返し、危うく取り落としそうになった。
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公開:19/11/29 19:35

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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