オーダーメード内ポケット専門店 寺木

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 カランカランという鐘の音が、壁中に展示されている内ポケットに柔らかく吸い込まれていく。
「いらっしゃいまし」と、寺木社長。全てが内ポケットでできた自前のスーツで登場だ。
「内ポケットはロマンですから」
 寺木社長は、初めて内ポケットのついた服を着たときの思い出に目を細める。
「服の内側には無限のフロンティアが広がっています。私たちは内ポケットという形で、そこに乗り出すのです。大海原を行く、美しい帆船のように」
 寺木社長が製作する内ポケットにどのようなものを入れても、服のシルエットが崩れることは決してないという。
「服の内側は無限の空間に繋がっています。なので逆に、どこまで、どのような形で使うかを明確にしておく必要があります。汎用的な形では事故につながりますから」
 私はここで、生卵を一個ずつ、計10個収納する内ポケットをTシャツ内にオーダーし、愛用している。今のところ、事故は0である。
その他
公開:19/11/29 19:33

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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