水天神~細道

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視界が半分空になった。
穏やかな水音、肌寒いが澄んだ風。神社の脇から社殿の裏へ水路が伸びていたのだと、見渡して気付いた。
「裏参道。宮を通り、命を宿した神気が、地上へ広がりゆく、最後の関門です。天神様の細道と言う人もあります」
人形の袖が、水路の先の水門を示す。流れ出る水はわずか。ほとんどは門に打ち寄せ、静かに留まる。
「とおりゃんせの細道か?」
「人は七つまでは神のうち。子が無事に生まれ、成長する事は、本来奇跡なのです。どれ程多くの命の種が卵が、実らず闇へ消える事か。生きは良い良い孵りは強(こわ)い。難しいと知りながら、それでも先へ進まねばならない」
「私には、進む意味さえなかった。他の男とだったら、子供も持てて、もっと幸せに……」
くしゃりと潰れた紙が、水になって流れ落ちた。
「本当に、それが彼女の願いだったのでしょうか?」
――ざくり。二本の髪の尾が、人形の肩から断たれ、風に融けた。
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公開:19/11/29 17:33
天神さまと『とおりゃんせ』

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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