水天神~形代

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右に巫女が――巫女に似せて裳唐衣(もからぎぬ)を脱いだ人形が並ぶ。頭冠は玉櫛に変じ、顔は妻の女雛だった。私は左に、白い届を握りしめて膝をつく。
右に女雛、左に男雛。私の知る関西の並び。妻の関東雛は位置が逆で、初めの年、落ち着かないと変えてもらった。私が家を出た節分の日も、妻は黙々と人形を飾っていた。
「お前は人形か。お前自身か。こんなものを今更見せ付けて。そこまで私が憎いのか」
「憎んでいるのは貴方です。彼女を想うなら、なぜ出さなかったのです?」
「出したさとっくに!戸籍上は他人だ、それ以上何が出来る!!」
娘が出来たら、雛人形を譲ると妻が言った。
息子だったら、天神様を買おうと私が言った。
十年待って恵まれず、病院で私が原因と告げられた。妻には言えなかった。私はお前がいれば良いと、元凶がどの面下げて叩けよう。
更に二年。まだ間に合う内にと決心し、家を出てもう一年迷った挙句、届けを出した。
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公開:19/11/29 16:07
関西雛:左に男雛、右に女雛 関東雛:左に女雛、右に男雛 日本の左上右下の慣習と、 西欧の右優位の分岐点

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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