枝折(しおり)

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一段打って改行した処で、右目が震える。
ひく、ひくり。瞼の上から眼窩の周囲を押す。根を詰めた時の癖で、視力の弱い右が痙攣する。――ひくり。くすぐったそうにざわめく眼球。ましな方の左を隠す。液晶の光に透けて、細かな枝がびっしり張ったのが視て取れる。物を見る役には、もう立たない。――ひくひく。視神経に取って代わった枝が笑う。
しばらく仮眠をと決め、原稿に伸び放題の枝を探る。――ぽきん。改行の空白から突き出た一本を折る。垂れ下がった先は枯れ、再開の目印になる。栞は枝折。帰り道、迷わない為の道しるべ。絡まり過ぎて出られない私の儚い抵抗。目覚める頃には、隣から脇から前の頁から、生い茂った枝に大方隠れてしまうだろう。
創樹と、付けた名前も原因か。私の記した文字から、種が芽吹いて枝を伸ばし、画面じゅう蔓延っている。
黒く眠らせた画面に、浸食された私が浮かぶ。指の形の枝で、右目を覆ったひこばえを折り払う。
ホラー
公開:19/11/30 23:31

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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