10
9
境内の手水舎で清めを済ませ、石畳の参道を歩く。目地も綺麗な白い道の、中央半歩右を、巫女は左を進む。神の道であるから、中央は不遜。結婚する年の初詣、妻を諌めたら眉を寄せて立ち止まった。あの時は私が左、彼女が右を歩いた。間に冬の風を通しながら、繋いだ掌が温かかった。
白衣の袖が視野の端に振れる。どんなに伸ばしても、指先に体温を感じる事はない。自分から放したくせに、私はいじましく面影を追っている。
昼前の陽射しは明るくて、参道の照り返しが眩しくて、そのせいにして視線を伏せた。
参道と産道――祈って叶うなら、離れたりしなかった。
「建立されて、新しい様ですね」
「平成二年です」
なるほど。神社の方が私より若い。奇しくも妻と結ばれた年だと知り、肩に老いが圧し掛かる。十二支が回るだけ連れ添い、それが区切りだった。今では独りの時間の方が長い。
追い陽が私の前に、子供丈の影を投じる。
影は一つきりだった。
白衣の袖が視野の端に振れる。どんなに伸ばしても、指先に体温を感じる事はない。自分から放したくせに、私はいじましく面影を追っている。
昼前の陽射しは明るくて、参道の照り返しが眩しくて、そのせいにして視線を伏せた。
参道と産道――祈って叶うなら、離れたりしなかった。
「建立されて、新しい様ですね」
「平成二年です」
なるほど。神社の方が私より若い。奇しくも妻と結ばれた年だと知り、肩に老いが圧し掛かる。十二支が回るだけ連れ添い、それが区切りだった。今では独りの時間の方が長い。
追い陽が私の前に、子供丈の影を投じる。
影は一つきりだった。
恋愛
公開:19/11/28 13:05
更新:19/11/29 01:30
更新:19/11/29 01:30
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます