水天神~橋姫

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水路を横切る橋の、まだ塗りの新しい欄干に、巫女装束が袂(たもと)を掛けている。
あをによし、ならの都は咲く花の。古歌を浮かべつつ、持ち手の擦れた鞄を提げ直す。渡った先に鳥居が見えるから、境内のついでに掃除に来たのか。袴は緋色より橋の丹色に近く、金の頭冠は擬宝珠(ぎぼし)の形をして、まるで橋が人の姿を取って現れた風にも見えた。
「もし、道をお尋ねしたいのだが」
冠が陽光を弾き、長い髪が黒猫の尾の様に揺れた。猫又の様に、かも知れない。珍しい事に、二つに結ったのを両肩から下げている。妻の嫁入り道具の雛人形を思った。これも元妻と言うべきか。似ていると笑えば軽くふくれた、丸みの強い肌白の面。手櫛を通した滑らかさや香りまで蘇る。鞄の金具が小さく軋んだ。
「どちらまで?」
どちらまで――それを私が知りたいのだ。
答えあぐねる間に、巫女は草履を返して橋を渡った。宙を掃く二本の尻尾を追って、私も足を速めた。
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公開:19/11/27 22:21

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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