無誘惑社会

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「……奥様、奥様?」
 老婦人は、慌てて補聴器のスイッチを切った。
「すごい機械。あなたの声も全く聞こえませんでしたわ」
「私の声も? ハハ、確かに。私の説明も一種の『広告』といえますからね」
 老婦人は、販売員の言葉にそっと笑みを浮かべた。

 購入した老婦人の生活は一変した。
 世界がこんなに静かになるとは思いもしなかった。
 街の雑音、テレビのCM、画面移りゆく看板。
 どんなに目障りで騒がしいものだったのか。
 ただ今日も気になるのは、お医者の先生のお話。
 途中から急に聞こえなくなるのだ。
『きっと、効きもしない妙なお薬の進めでもしたのでしょ』
 老婦人はそう考え、続くこの静かで豊かな余生を楽しむことにした。

「先生、どうでしたか? あの患者」看護士が医者に尋ねる。
「今日も駄目だったよ。極めて悪性の腫瘍があるから、最新の治療を早く受けるようお話しを続けているのだが……」
SF
公開:19/11/27 22:10

ルイス足永( 関東 ケヤキの葉の上 )

ルイス足永(アシナガ)と申します。
普段はニコニコ静画に画像付きの作品を転がしています。
こちらにも載せれそうな作品の投稿をしたいと思います。
twitter:https://twitter.com/otoshibumi57
ニコニコ静画:http://seiga.nicovideo.jp/clip/2497487

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