水天神~神体

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どう――と、水音が押し寄せた。
堰かれて届かなかった奔流が、御扉の内に逆巻く。社殿脇の水路にしては急峻過ぎる。石造りの橋が膝に当たる。
「水天神の軸。宮の御神体です」
右から声。参道と位置が逆だ。水鏡に反転した様に。
「川にしか見えませんよ、どんな仕掛けか知らないが。一般の神社は宮でなく社だし、御神体に触れられるのは宮司だけだ」
「水天神は、正しく宮。母なる水と神の雷が交わり、命を育む子宮なのです」
背中に衣擦れ。青白い波涛に肝が冷える。突き落とされれば助かるまい。
「宮司は逃げました。己で負うた役目を捨て、旅空を流離ったまま」
「好きで逃げたんじゃない、お前の為だった!」
振り払った拍子、鞄の持ち手が切れ、橋げたに中身を撒いた。
判を付いた、白い紙切れ。
「どんなに望んでも叶えてやれない!……私の体では、子供が作れなかった!!」
記した日付は、妻を家に残し、私が戻らない旅に出た日だった。
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公開:19/11/29 12:27

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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