水天神~鳴鈴

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意を決して、扉前の鈴緒(すずお)を掴む。招いていると巫女は言ったが、訪問を形で示すのは礼儀だろう。石畳の際まで垂れた緒。神と人を繋ぐもの、水を母性とすれば、その繋ぎはへその緒かも知れない。天神様の菅原道真公は男性だが、水を冠する意味も別にあるはずだ。
「手荒はなりません。髪を梳く様に」
頬に熱が上る。新床の日、妻の髪を夜通し梳いていた。飾ったばかりの雛人形が、棚から私達を見下ろしていた。
掴んだ指を離し、鈴緒の組み目を辿る。
――空が振動した。
腹に響く轟音。思わず耳を塞ぐ私に、人形めいた巫女の顔がほころぶ。
「水天神は雷雨の司。雷と雨は対にして、農耕の守護です」
「稲妻は、字面からして女では?」
豊穣と多産。当て擦りにしてもしつこい。
「古来、相対する両者をツマと呼びました。稲妻は男性格であり、想い合う夫婦は、互いにツマです。貴方と彼女の様に」
ぎっ、と軋り、御扉が内側へ開いていく――。
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公開:19/11/29 08:43
神社の鈴(本坪鈴): 神との繋ぎであり、訪問の報せ。 一種の呼び鈴です。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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