水天神~御扉

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社殿まで数歩の距離で、足が迷う。鎖された御扉は、明るい茶褐色に金をあしらった華やかな意匠。正午の太陽と樹木の陰影が、多様な風合いを織りなす。禁色の最高峰、黄櫨染(こうろぜん)を連想した。
帝の袍に喩えるのは不敬か。帝に?それとも神なる方に?そもそもここに祀られた水天神とは何だ?少し考えて放棄した。何が私を招いたにせよ、ここは隔絶された異界なのだ。
今私が感じている既視感。この扉を知っている、理屈を抜きに。
黄櫨染。帝。内裏。――内裏雛。並んだ夫婦人形――違う、男雛の衣は黒だ。昔の傷に引っ掛かるが、扉に関しては違う。
「水天神のご神体は、札でなく軸なのです」
左耳を囁きが撫でる。
ああそうだ、天神様。妻の郷里の風習。男児の誕生祝いと学業成就の祈念。菅原道真公の掛け軸を正月に飾る。妻の実家で見た軸の装具が、これに近い色柄だった。私は関西の出で馴染みがなくて。
関西と関東。また何かが爪を立てた。
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公開:19/11/29 00:13
黄櫨染:日本最高位の禁色。 天皇の正装(袍/ほう)に用いる

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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