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影の無い巫女の、下げ髪が揺蕩う。師走も近いのに、腋に汗が伝った。靴底で砂利が鳴る。草履は全くの無音で進む。猫の忍び歩きより軽く、二歩、三歩開いて、私は動けない。
「神馬です」
唐突に袖で指され、仰ぎながら距離を取る。
氏子衆の奉納だろう。石の台座に、黒馬の像が蹄を上げる。立派なものだ。緑青の浮いた鬣(たてがみ)に風格を感じる。
「神の乗騎ですね。昔は生き馬が捧げられたと聞くが。……晴れ乞いは白毛、雨乞いは黒毛だったか。水にゆかりの社らしい」
「水は海、馬は産まれに通ず。豊穣と多産の象徴でもあるのです」
気持ちが塞ぐ。水が女性ないしは母性なら、むろん神馬は牡馬。他意はなくとも皮肉に取ってしまう。
「私を招いたのは、神馬ではないのでしょう」
口早に言い捨て通過する。――人の恋路を邪魔する奴は。十二支で閉じた夫婦生活、私自身が邪魔だった。いっそ求婚も蹴られていれば、遥かに痛みは軽かっただろうに。
「神馬です」
唐突に袖で指され、仰ぎながら距離を取る。
氏子衆の奉納だろう。石の台座に、黒馬の像が蹄を上げる。立派なものだ。緑青の浮いた鬣(たてがみ)に風格を感じる。
「神の乗騎ですね。昔は生き馬が捧げられたと聞くが。……晴れ乞いは白毛、雨乞いは黒毛だったか。水にゆかりの社らしい」
「水は海、馬は産まれに通ず。豊穣と多産の象徴でもあるのです」
気持ちが塞ぐ。水が女性ないしは母性なら、むろん神馬は牡馬。他意はなくとも皮肉に取ってしまう。
「私を招いたのは、神馬ではないのでしょう」
口早に言い捨て通過する。――人の恋路を邪魔する奴は。十二支で閉じた夫婦生活、私自身が邪魔だった。いっそ求婚も蹴られていれば、遥かに痛みは軽かっただろうに。
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公開:19/11/28 18:14
更新:19/11/28 18:15
更新:19/11/28 18:15
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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